作中の随所に光る日韓合作ならではの雰囲気とは?

 

――舞台挨拶では、田中さん自ら劇中にも登場する「エンドポイント」と書かれたカフェの看板制作を手伝ったとお話されていましたね。まさにスタッフキャストみんなで作り上げた感じが伝わってきました。

 

実は、私がこの映画を拝見して一番魅力的だと感じたのは、「失恋した女性が、新たな恋によって失恋の傷を癒す話ではない」というところにあったんです。もちろんこれは、ばななさんの原作における重要なモチーフでもあるのですが、この関係性を映画で表現するのは、ものすごく難しいような気がしたんですよね。田中さんはスヨンさんとの掛け合いのシーンを演じる上で、どんなことを意識されましたか?

 

田中:この映画はラブストーリーではないから、「距離はすごく近いけど、恋愛関係ではない」という絶妙なバランスを意識しながら演じるようにしていましたね。スヨンさんもずっと「西山とユミの関係が恋愛に見えたらおしまいだと思う」と言っていましたから。

 

――なるほど。そこは監督ご自身も一番こだわったポイントだったのでしょうか?

 

監督:実は私自身、失恋直後のドン底期間を日本人の友だちと一緒に過ごした経験があるんです。日本各地を旅行をしながら、共に人生の悩みと向き合うことで、失恋の痛みから立ち直れました。その友人は男性だったのですが、お互いに恋愛対象ではなく、完全に友だち関係だったんです。初めは「韓国人と日本人が友だち関係になる」という設定自体、すごく難しいことだと思っていたのですが、いまでは韓国人女性と日本人男性の組み合わせは、友だちとしてすごく相性がいいと感じています。

 

――その理由とは?

 

監督:韓国の女性は割と正直に自分の思っていることを口にするタイプが多いのですが、日本の男性にはそういった女性とも素直に話せる方が多いんです。もし私にユミと同じような経験がなかったら絶対に思いつかなかったであろうセリフも、この映画にはたくさん登場します。

 

――これは西山くんとユミのセリフではないのですが、なんといっても衝撃だったのは、ユミが婚約者だったテギュから別れを切り出されるシーンのセリフが、韓国語ではなく日本語だったこと。本来、ユミとテギュは韓国語でしゃべる方が自然なはずなのに、後ろにいる日本人の彼女に聞かせる形になっているところにテギュという男性の残酷さを感じて、そこから一気に物語の世界に引き込まれていったんです。これは監督の意図ですか?

 

監督:もちろんです。日本語と韓国語の違いを利用したかったんです。ばななさんの原作に手を加えること自体が私にとってはプレッシャーだったので、日韓合作映画の監督・脚本を務めるにあたって私が出来ることは「そこしかない!」と思って、すごく頑張りました。

 

――映画化にあたってヒロインを韓国の女性に置き換えたことで、時代の空気感が上手く反映されていると感じました。いくら隣の国の人であっても、外国人が日本で生活することの難しさのようなものが、すごく自然に描かれている気がしたんです。田中さんが「ホーム」にいながら「アウェイ」な感覚を味わったことも、きっとプラスに働いているんじゃないかと思います。お互いの気持ちを想像しあえることこそ、日韓合作映画ならではの良さなんじゃないかなと感じたんです。

 

監督:「ここで急にユミが韓国語をしゃべったら面白いんじゃないか」みたいな感じで、田中くんとスヨンさんと現場でいろいろディスカッションしながらセリフを作っていったところも、すごくライブ感があって面白かったです。

 

――田中さんはいかがでしたか?

 

田中:実は、もともと台本にはなくてあとから現場で追加したシーンがあるんです。西山がユミに「このあとちょっと付き合ってよ」っていう場面なんですが、商店街を歩きながらユミが、「え!?  私いま、西山から告られたの?」みたいな反応をしているんですよ。西山的には普通に「買い物に付き合ってよ」っていう意味で使っているんですけどね(笑)。

 

――あのシーンは、勘違いするユミがすごく可愛くて私も大好きです。ここから2人は恋愛に発展するのかなぁって、一瞬想像したりもして。

 

監督:実は、これも私の経験なんです。日本に来た途端、まわりのみんなが「付き合ってよ」「付き合ってよ」って言ってくるから。

 

田中:ハハハ。それはモテまくりですね(笑)。

 

監督:そう!「私、日本ではめちゃくちゃモテる」ってずっと言っていたんですけど、実はそうじゃなかったっていう……。でも、きっとそういう勘違いって、実はたくさんあると思うんです。今回は現場でみんなが同意してくれて、良かったなと思いました(笑)。

 

――カフェの前で同じ韓国人であるジンソンとユミが、韓国と日本では「ご飯食べた?」という言葉のニュアンスが全然違うというようなことを話している場面も、印象的でした。韓国では挨拶がわりに相手を気遣う言葉なのに、日本では「ご飯食べた?」って聞くと「奢ってあげるよ」という意味に取られるとジンソンがボヤいて、とても興味深かったです。みんなで一緒にご飯を食べるシーンも魅力的でした。

 

監督:旅行先では、あまり素性をよく知らない人たちとも一緒にご飯を食べて盛り上がったりすることもありますよね。なぜかその瞬間だけは、家族みたいな関係になってしまうことが、とても印象に残っているんです。パーティーのシーンは、ゲストハウスという空間をリアルに見せたいという意図もありました。映画に登場するフランス人女性も、実際に私が日本でゲストハウスに泊まった時に出会った方なんです。

 

――監督直々にスカウトされたんですね。

 

監督:はい。映画の中で大道芸を披露している方も、本物の大道芸人の方なんです。だからあのシーンでは私がディレクションすることはほとんどなくて、「みんなで飲みながら、遊んで!」という感じでした。途中で「え!?  これ、本物のお酒じゃないよね?」って、思わずみんなが飲んでいたグラスの中身を確認してしまったくらいです(笑)。

 

――ハハハ。監督の目にも本当にみんなが酔っぱらっているみたいに見えたんですね。

 

監督:はい。「カット」をかけても、みんなで「ワー」って盛り上がったまま、話が一向に止まらなかったんです。

 

――まるでドキュメンタリー映画のようですね。

 

監督:設定は私が書いたのですが、あの雰囲気が出せたのは出演者の皆さんのおかげです。

 

――西山くん特製の「ミソトースト」など、カフェのメニューもすごく美味しそうだったのですが、田中さんご自身は割と普段から料理をされるんですか?

 

監督:上手いです!

 

田中:いや、別に上手くはないですよ(笑)。

 

監督:料理をしているときの田中さんの腕は、韓国の女性にすごくウケると思います。

 

田中:!?  僕の腕が?

 

監督:そう! 田中さんがフラインパンを振るうときに筋張る筋肉を見ながら、助監督と「お~!」「ここ、ここ!」「これ、撮ろう!」と盛り上がりました(笑)。

 

――ハハハ。田中さんは腕の筋肉に女性陣の熱視線を浴びながら、フライパンを振るっていたんですね。

 

田中:まさかそんなところを撮られているなんて思ってもいませんでしたけど、料理はある程度はできますね。最近はまったくやらなくなってしまったんですが、めちゃくちゃ自炊にはまっていた時期もありました。今回はそれほど料理シーンが多いわけではないんですが、ちょろっとやっていますね。

 

――カフェに集う常連さんたちが西山くんを大好きなことはものすごく伝わってくるのですが、正直ちょっとうっとうしい感じもしますよね。でも西山くんはちゃんと相手をしてあげている。

 

田中:西山は、周囲とのバランスのとり方が上手なんですよ。彼自身、人を惹きつける力はあるけど、決して近づけすぎないんです。それはユミに対してもそうで、西山自身きっとカフェの常連さんたちに救われたところもあると思うのですが、ユミがやって来たことによって、初めて自分の本心に気づくこともあったと思う。それこそが、西山とユミの心の交流だったんじゃないかな。そのあたりの台本の描かれ方も、すごく絶妙だったんですよね。

 

――ユミと西山くんの互いにズカズカ踏み込みすぎない関係性が、すごく魅力的でした。恋愛関係じゃなくても「自分のことを気にかけてくれる人がいる」ということで十分救われる。きっと西山くんにとっても、ユミと一緒に過ごした時間はかけがえのない思い出として、ずっと記憶されていくんだろうなと、優しい気持ちになりました。

 

監督:ありがとうございます。

 

――では最後に、もう劇場公開もスタートしているタイミングということで、あえて伺います。ずばり、もし田中さんなら、ユミのために100万円を取り戻しに行きますか?

 

監督:この話題、現場でスヨンさんとも盛り上がりました(笑)。

 

 

田中:いやぁ~、僕自身ですか!?  う~ん、僕はさすがにそこには踏み込めないかなぁ。もし僕がその時点でユミのことが好きで「これからもユミと一緒に居たい」という思いが強かったとしたら、取り返しに行くかもしれないけど……。でもやっぱり怖いんで、きっと僕なら止めときますね(笑)。

 

監督:それが一番賢い選択だと思います!

 


 

実は『デッドエンドの思い出』には、以前、白石和彌監督作品『止められるか、俺たちを』のスタッフ座談会に登場した大久保礼司さんが、照明スタッフとして参加しているというつながりもありました。撮影中は、田中さんが中心となって、日韓スタッフの交流をはかる場面も多かったといいます。同世代の韓国人と日本人のスタッフ・キャストが、文化や言葉の壁を乗り越えて、試行錯誤しながら一緒に作り上げていった映画制作の現場が垣間見える楽しい取材でした。

 

(取材・文:渡邊玲子、写真:加藤真大)

『デッドエンドの思い出』概要

 

2019年2月16()新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

 

出演:チェ・スヨン(少女時代) 田中俊介(BOYS AND MEN)

原作:よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(文春文庫刊)

監督:チェ・ヒョンヨン

配給 アーク・フィルムズ

 

 

公式サイト:http://dead-end-movie.com

 

 

©️2018 Memories of a Dead End FILM Partners

 

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