先日開催された第91回アカデミー賞で、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を獲得した映画『バイス』。かつてのアメリカ副大統領であるディック・チェイニー氏に見事なまでに扮したクリスチャン・ベールさんと、アダム・マッケイ監督による社会派ブラック・エンターテイメント作品です。4月5日(金)からの全国公開にさきがけて、去る2月18日(月)にはジャーナリスト/映画評論家の町山智浩さんをゲストに招いたスペシャルトークイベント付特別試写会が開催されました。

 

100人を超える濃密な人物が登場する本作。アダム・マッケイ監督のコメディ描写も多く、町山さんによって本作で描かれるフライフィッシングのシーンなど、象徴的なシーンの解説がなされていきます。

 

町山:(本作には典型的で真面目な)愛国者の共和党員も登場します。(チェイニーは)彼らから心臓(心・ハート)を奪ったということなんです。

 

激動の世界情勢となった当時のブッシュ政権で、副大統領を務めていたチェイニー。『バイス』には彼の知られざる人間像が描かれているのです。彼は悪人だったのか、凡人なのかーー。ぜひ映画を観て、感じて考えてみてください。

 

 

町山さんによる公式インタビューもトーク中に公開されました。決して学歴優秀というわけではなかったものの副大統領にまで上り詰め、湾岸戦争とイラク戦争に関わることになったディック・チェイニー。「(誰も選挙で投票したわけではないのに)平凡だった彼がなぜこんなことになったのか」というところから、アダム・マッケイ監督は本作を作ろうと思ったとのこと。

 

 

作品ごとに体型を変えるレベルの役作りをすることで知られるクリスチャン・ベールさんですが、本作も小太りなチェイニー副大統領を完璧に再現して熱演。鬼のような役作りを今後もしていくのか? という町山さんの質問には「No! 家族がダメだと言うんだ」と至極まっとうな回答が。

 

ちなみに、心臓に持病を持ち発作を起こしたことも多いチェイニーの役作りを進める中で、心臓に関する知識を身につけたクリスチャン・ベールさん。制作中、アダム・マッケイ監督が軽い心臓発作を起こしてしまった際に助けとなったというエピソードも町山さんから語られましたが「(巡り巡って)チェイニーのおかげで助かってるじゃん!」とツッコミ。そのときの模様も映画に使われているということで、アメリカという国の懐の深さ(?)を垣間見えました。

 

 

チェイニーといえば、左唇を上げた独特の顔つきも特徴的ですが、実際も映画のはじめも曲がってはおらず、どんどん曲がっていく変化があったとのこと。それがもともと興味がなかった政治に参画するストレスからなのか、それとも……。フォトセッションでは町山さんもチェイニーの口角を再現。観客にもチェイニーのお面が配られてさながら某映画のようなカオス空間に。ちなみに、ブッシュ大統領役のサム・ロックウェルさんの顔芸(?!)も必見です。

 

そして町山さんのインタビューでも話題となった、日本とアメリカの映画製作事情について。最後に町山さんとアダム・マッケイ監督からのメッセージを紹介します。

 

町山:日本で実名でこんな映画を作れますか? コメディアンが政治家を演じる映画にお金を出す人がいますかね。法律で禁止されているわけでもないのに、誰もやらないですよね。訴訟とかあるんじゃないかと思われますが、こんなのアメリカでは恥ずかしくて誰も訴訟なんてしないですよ。映画なんだから。事実じゃないところもいっぱいあるわけですが、言論に対する弾圧になるから(訴訟を)しないんです。

 

という町山さんから「日本では(『バイス』のような映画は)作り手が訴訟や反発を恐れていて俳優の確保も難しい。そんな現状を打破するようなコメントをいただけますか」と求められたアダム・マッケイ監督。

 

アダム・マッケイ:1つ言えるのは「権力を疑え」ということだ。監視を怠れば政府は暴走する。国は危機に陥り崩壊するだろう。政府に動きがない時も、自分のすべてを懸けてでも疑わなければダメだ。時には仕事を失い恥をかくかもしれない。でも歴史は証明してくれる。最終的にはあなたが正しいことをね。アメリカでも人々が口を閉ざすことは多くある。権力を恐れてるからだ。ただ、特にあなたが映画製作者や画家、詩人、小説家、俳優など芸術家の場合、権力を疑うのが、まず初めの仕事だ。

 

『バイス』概要

監督・脚本:アダム・マッケイ『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 出演:クリスチャン・ベール『ダークナイト』、エイミー・アダムス『アメリカン・ハッスル』、スティーヴ・カレル『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、サム・ロックウェル『スリー・ビルボード』
2018年/アメリカ/英語/132分/シネマスコープ/5.1ch/カラー/原題:VICE/日本語字幕:石田泰子/字幕監修:渡辺将人
提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド

 

 

公式サイト:http://longride.jp/vice/

 

 

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