1人ではできない創作活動と映画のエンドロール

 

――お2人がこんな風に気楽にお付き合いできるというのは、そもそも映画の出来が素晴らしかったからですよね。『ぼくいこ』に描かれていることは、宮川さんの実体験であり、自らマンガにされたものを大森監督が映画化して。そして宮川さんの役を安田さんが演じられて、さらにその安田さんと大森監督に宮川さんが寄せているという。

 

宮川:無限ループですね(笑)。

 

――ちなみに宮川さんはマンガを描いている時、映画化まで想定されていたんですか?

 

宮川:想定していたかというと……していたんですよ! そう思って描かないと、描けないからなんです。

 

――え、つまり……?

 

宮川:僕はうちの奥さんに、いつも最初に描いたマンガのネームを読んでもらうんです。そこから、白々しい部分や気になる部分をだんだん削っていくんですよ。

 

――最初の読者は奥様ということですね。

 

宮川:そうなんです。そうやっていくうちに「これって映画になりそうだよね?」って、うちの奥さんが囁くんですよ。

 

――ハハハ。

 

宮川:それで僕が「いやいやいやー」とか言いながら、「でも、映画化するんだったらこの人じゃない?」とか言ったりして(笑)。そう思わないと頑張れないんですよ。うちの奥さんなんて、映画化を想定したキャスト表を早々とスマホのアプリで勝手に作っていたり。

 

――では宮川さんと奥様の中では、キャストを想定されていたんですね?

 

宮川:はい。でも結果的に、僕たちが想定していた以上の方たちがキャスティングされて、奥さんが「わ~! これはいかん!」って、全員分あわてて作り変えたんですよ。それを夫婦だけで見せ合っていたんです(笑)。

 

――それはすごいエピソードですね。ちなみに、宮川さんはマンガ家になる前に映画のワークショップに通っていたそうですね?

 

宮川:はい。結構いい話を書いていたんですよ。

 

――先程のトークショーで明かされていた「当時書かれていた脚本」のあらすじが、とても気になりました。大森監督はいかがでした?

 

大森:いや、俺はちょっと違うかなぁと思った。

 

――ハハハ(笑)。

 

宮川:実は岐阜に住んでいた頃に映画のワークショップで書いた話は、ほかにもあるんです。

 

――たとえば?

 

宮川:『オボンバー』っていうタイトルで。

 

大森:あはは(笑)。

 

――『オボンバー』とは……?

 

宮川:お盆にやっているパチンコ屋のイベントで「今日は出るぞ~!」みたいな日なんですよ。そこに5回忌で亡き妻が1日だけ戻ってくるんですが、夫はパチンコに行きたくて堪らない。

 

――なるほど! 「お盆」と「ボンバー」をかけているんですね。

 

大森:おかしいね(笑)。

 

宮川:いつかマンガで『オボンバー』を描きたいと思っているんですけどね。

 

――映画のワークショップに通っていた宮川さんが、最終的にマンガを描くことを選んだのは、やはり基本的には1人で完結できるからですか? もちろん、いざ出版となれば編集者が関わってきたりもすると思うのですが……。

 

宮川:確かに、最初の頃はそうでしたね。でも今は別の企画もいろいろやっていて、デザインは作画の人に任せている作品もあったりするので、本当に気の合う人となら1人でやるよりもっと良いものができるような気がしますね。

 

――となると、今後は脚本家デビューの可能性も?

 

宮川:本当はそっちをやりたいんですよね。出来ることなら絵は描きたくないので。

 

――え⁉ そうなんですか?

 

宮川:Amazonレビューを読むと、「絵がヘタ」っていうコメントをよく目にするんですよ。

 

 

――えー⁉ めちゃくちゃかわいいですよ!

 

宮川:ですよね?

 

 

一同:(笑い)

 

――ちなみに、大森監督が映画に目覚めたきっかけは、ジョン・カサヴェテス監督作品と出会ったからだそうですね。

 

大森:そうですね。そもそも俺は、映画が「1人では出来ないところ」が好きなんですよね。カメラマンにはカメラマンとしての考えがあって、照明には照明なりの考えがある。そこに俳優がいて……っていうのが、俺は好きなんです。マンガにも「編集者がいるじゃない?」って、花村萬月さんに叱られましたよ(笑)。

 

宮川:確かに編集者ときちんとした信頼関係が築ければ、お互いに「これが面白いんだ」っていうのを共有できるようになってきます。気軽に内容を言い合えたり、編集者が叩き台になるようなアイデアを出してくれたりしますから。

 

そういえばちょうどこの前(宮川さん担当編集者の)C子さんも、そんな話をしていましたね。「私が一番しょうもないことを言うんだ」って。最初に編集者がしょうもないことを言って、結果的に作家にそれを超えてもらうという戦法なんです。そういう意味では、やっぱりマンガも編集者と一緒に作っているんですよね。昔は「1人じゃなきゃダメだ」って思っていたんですけれど、今は全然そう思っていなくて……ちょっと今から良い話をしますね。

 

大森:ハハハ。

 

宮川:C子さんはもともと映画が好きだから、『ぼくいこ』を連載してる時から「もし映画化されたら絶対にエンドロールにC子さんの名前を載せるから!」って約束をしていたんですよ。

 

――うわー! これは良い話の予感がしてきましたね。

 

宮川:そしてなんと『ぼくいこ』の映画のエンドロールに、C子さんの名前が実際に載っているんですよ! ね、良い話でしょう?

 

――たしかに!

 

宮川:さらに(宮川さんが原作を務める)『宇宙戦艦ティラミス』というTVアニメにもC子さんの名前が出てくるんですけれど、そこにはなんと「プロデューサー」とクレジットされているという。

 

――それはすごい! ちゃんと約束を果たされたということですね。日頃から「何かが生まれる瞬間」が知りたいと思っているので、マンガ家と編集者の関係性が垣間見えて、とても興味深いです。

 

 

■次ページ:監督っていうのは、「みんなに愛情を降り注ぐ係」

 

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