あらゆる物事をいろいろな角度から捉えられる視点

 

――先程のトークショーの中で宮川さんが「悲しいことを、悲しいままに描きたくはなかった」とお話されていたのが印象的だったんですが、表現をする上で常にそういった視点は欠かせないものですか?

 

宮川:作品にもよるんですけれど、この作品を描いているときに僕が意識していたのは「スイカの塩」なんです

 

――「スイカの塩」とは?

 

宮川:スイカに塩をかけると甘くなるじゃないですか。何か違う異物を足すことで、より甘みが出る感じを出したかったんですよね。というのも、母親のお通夜の時に「コンビニで何か食べるものを買ってきて」と誰かに頼まれて、思わずデラックスサイズのカップ麺を選んでいる自分がいた経験があって。それを持ってレジに立っていると、もう1人の自分が「さっきお母さんが死んだばかりなのに、なんでデラックスなの?」って言うんですよ。でも、実際にそういう風に思ったんだから、ちゃんとありのままに描かなきゃなって。カッコいいところだけを描くっていうのは、すごく嫌だったんです。

 

――なるほど。

 

宮川:映画の中でも、おにぎりの具で親戚が揉めているシーンがあるじゃないですか。「人間が死ぬってそういうことなんだろう」って僕は思っていて『ぼくいこ』には、あらゆる物事をいろいろな角度から捉えられる視点が詰まっているんです。実はそれこそが生きていくうえで一番大事なことだと思うし、そういった細部をきちんと映画で描ける大森監督は、本当に素晴らしい監督だと思っているんです。

 

――監督はいかがですか?

 

大森:これは宮川さんが言っていたこと同じことなんですが、プロデューサーの荒戸源次郎さんと4年間くらいほぼ毎日一緒に飯を食っていた時期があって。荒戸さんは「『ベルリンの壁があったほうが良かった』とは、誰も言わねぇなぁ」とか、いつもそういうことばっかり言っていたんです。言葉もそうだけど、世の中のイメージにはすぐに手垢がついて、あっという間に汚れていくじゃないですか。自分も一緒になってそういう中にいたら、新しいものなんて絶対生まれてこないっていう感覚がすごくあるんですよ。

 

人間には、自分がよくわからないものに対して、ものすごく距離を取りたくなるという性質があるんだけど、俺はあえて「わからないこと」をずっとやり続けていきたいんです。「ベルリンの壁があった方が良かった」って聞くと「それはどういうことなんだろう?」って、興味が湧くじゃないですか。物事をそんな風に見ていった方が、きっと面白いと思っていて。

 

俺は何かエッセンスを加えることによって、常に新しいものを発見したい。そういう風な考え方を、俺はずっと荒戸源次郎という人から学び続けていたんですよ。

 


 

池袋コミュニティ・カレッジで開催されたトークショーでは、ここではとても書けないような裏話も沢山披露され、「さて、インタビューではどこを掘り下げよう……?」と一瞬不安になったりもしたのですが、いざ蓋を開けてみたら大森監督と宮川さんから思いもよらない面白エピソードがわんさか飛び出し、あっというまに取材時間が終了に。監督と原作者の理想的な関係性を、間近で体感できた取材でした。

 

(取材・文:渡邊玲子、写真:加藤真大)

 

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』概要

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』

安田 顕 松下奈緒 村上 淳 石橋蓮司 倍賞美津子

監督・脚本:大森立嗣

原作:宮川サトシ「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」 (新潮社刊)

音楽:大友良英 主題歌:BEGIN「君の歌はワルツ」(テイチクエンタテインメント/インベリアルレコード)

配給:アスミック・エース 製作:「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会 助成:文化庁文化芸術振興費補助金 2019 /日本/カラー/ビスタ/5.1ch/108

 

 

公式HP:http://bokuiko-movie.asmik-ace.co.jp/

 

 

©宮川サトシ/新潮社 ©2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

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