フローレンスの80パーセントは、私であると言えるの

 

――映画の中でブランディッシュ氏が「本は人間が生み出したものではなく、自発的に現れたものなんだ」と言いながら、カバーに印刷された著者の顔写真を焼いてしまうシーンが印象的でした。監督ご自身も「映画を撮る時は作り手の気配を消すべきだ」と思われますか?

 

 

監督:私の場合、そうは思わないわね(笑)。だって、これまで私が手掛けてきたすべての作品に、私の存在が感じられるでしょう? 例えば、今回の『マイ・ブックショップ』や『死ぬまでにしたい10のこと』には、私自身のロマンティックなものに対する想いがよく表れていると思うから。本を手にした時の独特の匂いや、指でページをめくる感覚、スマホのディスプレイからは感じられない本の重みなんかを、観客にも思い出してほしかった。私は「1作品ごとにタイプがまったく異なる」と言われることが多いんだけど、自分自身ではそれぞれに私の個性が立ち現れていると思っているの。

 

実は『死ぬまでにしたい10のこと』と『マイ・ブックショップ』には、1つの大きな違いがあるのよ。(『死ぬまでにしたい10のこと』の)アンというキャラクターにはものすごく敬意を払ってはいるんだけど、あのキャラクターは私ではない。でも『マイ・ブックショップ』のフローレンスの80パーセントは、私であると言えるの。

 

――確かに『死ぬまでにしたい10のこと』の冒頭で、アンは「私」ではなく「あなた」と言っていましたよね。つまりこれは、観客自身の事を指している、ということですか?

 

監督:そうね。「これはあなたにも起こりうることなのよ」という想いを込めたつもり。観客をアンの立場に置くために必要な一言だったと言えるわ。

 

――監督は日本でも菊地凛子さんが主演の『ナイト・トーキョー・デイ』といった映画を撮影されていますが、監督が日本に惹かれる理由を教えていただけますか?

 

監督:なんでしょうねぇ(笑)。初めて日本を訪れた瞬間から、なぜかすごく楽だったし、居心地が良かったの。なんと言っても一番の後悔は、日本語をちゃんと学ばなかったこと。(日本語で)「ちょっと」「お疲れ様です」「美味しい」「大根役者」「問題ない」とか、基本的な表現なら知っているんだけどね(笑)。

 

――日本語がとてもお上手なんですね。

 

監督:村上春樹さんの小説を読んだ時、彼が生み出す世界観に強く惹かれたの。光栄なことに、バルセロナの私の家に彼が遊びに来たこともあるわ。とても謙虚な方で、心の底から敬愛しているの。もちろん大江健三郎さんや川端康成さんの小説も読むし、日本のファッションも大好き。私のコートは全部「JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS」とか「Yohji Yamamoto」とか「LIMI feu」だったりするのよ。あとは、懐石料理にお寿司やラーメン、大阪のストリートフードも大好きだしね。もしかしたら、私の前世は日本人だったのかもしれないわ(笑)。

 


 

インタビューでは、ざっくばらんに自らの率直な思いをポンポンと投げ返してくださったイザベル・コイシェ監督。周囲を温かく包み込む大らかさと、まるで少女のような繊細な感覚が絶妙なバランスで共存していることが、監督が身にまとうファッションや小物選びのセンスの良さからも伺い知ることができた取材でした。

 

『マイ・ブックショップ』概要

 

『マイ・ブックショップ』

3月9日(土)よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国順次ロードショー

 

監督&脚本:イザベル・コイシェ 出演:エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン

原作:「ブックショップ」ペネロピ・フィッツジェラルド著(ハーパーコリンズ・ジャパン*3/1刊行)

2017|イギリス=スペイン=ドイツ|英語|カラー|5.1chDCP 原題:The Bookshop

配給:ココロヲ・動かす・映画社○

 

 

公式サイト:http://mybookshop.jp/

 

 

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

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