僕が蒔いた種が、大きな木に成長したような感じかな。

 

――本作の主人公・リアムは、母親のクレアから自宅で英才教育を受けて「ホーキング博士のようになりたい」という夢を持っています。監督にも娘さんがいらっしゃるそうですが、ご自身の教育方針としては、割と早い段階でやりたいことを絞った方が夢に近づきやすいと思いますか?

 

 

監督:クレアも別に悪気があって厳しくしているわけじゃないけど、僕自身は娘のやりたいことをじっくり聞いた上で、サポートしたいと思っているよ。まずはいろんなことを経験して試した上で、何か1つやりたいことが決まったら、たとえそれがどんな職業だとしても一緒に応援してあげたい。僕から「絶対にこの道に進むべきだ!」と娘に押し付ける気はないんだ。

 

――エキセントリックなくらい過保護な母親のクレアも、リアムと一緒に成長していく感じがすごく魅力的だと思いました。監督ご自身も、子育てを通じて新たに学び直すことがありましたか?

 

監督:沢山あるよ。父親としての経験は初めてなわけだし、実戦で学ばなきゃいけないからね。でも幸い子どもが育つスピードはそれほど早くはないから、僕も子どもと一緒にゆっくり学べている感じがする。

 

――本作には90年代のカルチャーがふんだんに詰まっていますが、監督ご自身がその世代のアーティストやクリエイターに影響を受けたからでしょうか?

 

監督:特に誰かの影響を強く受けた、というようなことはないんだけど、世代的に90年代にノスタルジーを感じるというのは確かにあるよね。今回は特に色や音楽でも遊びたいという気持ちがあったから、撮影に入る前に自分で本を作ってみたんだ。

 

――具体的に、どんな本だったんですか?

 

 

監督:僕が作ったのは50ページのルックブックなんだけど、それにこの映画につながりそうなアイデアをどんどん落とし込んでいったんだ。それを撮影監督や衣装担当、プロダクションデザイナーやキャストに見せて「僕はこんな感じの映像にしたいんだ」っていうのを共通認識として持ってもらうためにね。言葉で説明するより、視覚的に見てもらったほうが早いから。

 

――劇中、主人公のリアムが「気になる女の子に会えるかなぁ」と思いながら学校の廊下を歩いていくシーンなど、まるでミュージックビデオのような雰囲気で、自分まで同じ学校に通っている生徒になったような気分が味わえました。

 

監督:実は、映画の前半ではあえて画面に余白を残すことで、どこか調子が外れているような不思議なフレーミングにしてあるんだ。でも物語が進んでリアムが成長していくにつれて、トラディショナルな形式に近づいていく。フレーミングによってリアムの心情や立ち位置を見せたかったんだ。

 

 

――ファンタジーの要素を取り入れて、あくまでポップに見せるのは監督の演出の肝とも言えますか?

 

監督:まさに、その通り! だって僕は、お説教がしたくてこの映画を作ったわけじゃないからね。いつだって、観た人の心が軽くなるような映画を作りたいと思っている。もちろん心温まる場面もあるんだけど、この映画を通じて誰かの人生をガラッと変えたいと思っているわけではないんだ。

 

――完成した映画は、もともと監督がイメージしていた世界観に限りなく近いものでしたか? それとも作っていくうちに変化しましたか?

 

 

監督:僕が最初にイメージしていたものと、出来上がったものは似ていると思うよ。もちろんルックブックはただのイメージにすぎないし、出来上がった映画は息づいているものだから、全く同じというわけではないけどね。制作過程において、俳優はもちろん各スタッフそれぞれが自分のアイデアを出してくれた。僕が蒔いた種が、大きな木に成長したような感じかな。森の中に生えている木を見て、それがもともとどんな種だったかなんて、なかなか想像ができないでしょ?

 

――確かに! いったん種を蒔いたら、成長するまでどんな木が育つか誰にもわからないという意味では、子育てにも通じるような気がします。

 

監督:そうだよ。だって、まさにこの映画はそういう木の物語なんだから(笑)。

 

――え !? ジョークですよね?

 

監督:もし君が木のエピソードを気に入ったら、この映画から木のことを沢山感じてくれたらいいなぁと思うよ(笑)。

 

――ウィットに富んだ監督の発言も、作品の世界と通じるところがありますね(笑)。上映前の舞台挨拶でも、「東京の街を歩いているときに声を掛けられて、寄付を集めているのかと思って近寄ってみたら、なんとガールズバーの勧誘だった」と監督がおっしゃっていましたが、そういった日常におけるちょっとした勘違いのようなものが、映画を作る上で新たな発想の種の1つになったりもしますか?

 

監督:まさにそういったものが、次の作品の種になると思うね。「勘違い」や「混乱」といったものこそ、コメディのネタになりえるから。

 

――たとえ現実の世界は辛くても、自分自身で笑いの要素を生み出したり、発想の転換で面白くしたりすることが、欠かせないことだと思われますか?

 

監督:世の中には楽天的な人とネガティブな人がいるけど、視点を変えてなるべく楽天的に過ごすことが、きっと何より重要なんじゃないかな。風邪のウィルスを例に上げると、楽天的な人の方がネガティブな人よりも病気になる確率が低いという結果もあるんだよ。

 

――なるほど。

 

監督:僕はすごく些細なことに怒っている人を見ると、いつも笑っちゃうんだ。「なにもそんなに怒ることないじゃん!」ってね。世の中は素晴らしいものだし、楽しいものだと思うから。

 

――些細なことに怒る人って、例えばどんな人ですか?

 

監督:う~ん、そうだな。飛行機に乗った時に、通路がつかえてイライラしている人を見かけることがあるよね。「これから10時間以上もこの飛行機に乗るっていうのに、そんなに急いで自分の席に行ってどうするの?」って思っちゃうんだ(笑)。

 

――言われてみれば確かにそうですね! この映画を観て、多くの人が「発想の転換方法」を学べたらいいなと思います。

 

 

インタビューを終えたあとでの撮影では、舞台挨拶のときと同様にノリノリでポージングを決めてくれたカイル監督。そんなユーモラスでサービス精神あふれる監督の手がけた『リアム16歳、はじめての学校』を、ぜひ劇場でご覧になってみてください!

 

(取材・文:渡邊玲子、写真:加藤真大)

 

『リアム16歳、はじめての学校』概要

 

『リアム16歳、はじめての学校』

4月27日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開

 

監督:カイル・ライドアウト

出演:ジュディ・グリア、ダニエル・ドエニー、シオバーン・ウィリアムズ、アンドリュー・マックニー

2017|カナダ|英語|ビスタサイズ|カラー|5.1ch86分|原題:Adventures in Public School

日本語字幕:中沢志乃|後援:カナダ大使館|配給・宣伝:エスパース・サロウ|PG12

 

 

公式サイト:https://liam-hajimete.espace-sarou.com/

 

 

 

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