ガス・ヴァン・サント監督の最新作『ドント・ウォーリー』が、いよいよ5月3日(金・祝)から劇場公開されます。公開に先立ち、今年2月にはガス・ヴァン・サント監督の来日が10年ぶりに実現。都内にて、ティーチインと記者会見が開催されました。来日中に監督が語った言葉の中から、特に印象に残ったエピソードをご紹介します!

 

 

ガス・ヴァン・サント監督といえば、リヴァー・フェニックス主演の『マイ・プライベート・アイダホ』をはじめ、ロビン・ウィリアムズがアカデミー賞助演男優賞に輝いた『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』や、コロンバイン高校の銃乱射事件をモチーフにした『エレファント』など、数々の名作を生み出してきたアメリカを代表する監督の一人。オレゴン州のポートランドに拠点を置きながら、最先端のストリートカルチャーを独自の世界観で切り取るのが得意な監督でもあり、美少年を見出すことにも長けているという印象が個人的には強くありました。

 

そんな私が今回もっとも驚いたのが、監督が今から2年も前に長年慣れ親しんだポートランドを捨て、ロサンゼルスのハリウッドにほど近い場所へと生活拠点を移していたということ。ティーチインにも登壇した、監督の古くからの友人でもある野村訓市さんが「昔はガスといえばポートランドだったのに、こないだ家に行ったらあっさり(ポートランドは)捨てたって言っていたよね?」と口にしたときは、思わず「え⁉」と耳を疑ったほど。ガス・ヴァン・サント監督とポートランドという街は、もはや切っても切り離せないものだとばかり思い込んでいた私にとって、この話はかなりの衝撃をもたらしました。

 

 

ですが、「忙しい俳優たちに、わざわざポートランドまで来てもらうのは大変なんだ。ロスに居たほうがいい俳優がそろうんだよ」と、監督の口から極めて現実的な理由が明かれた途端、まるで「いい俳優と共に、いい映画を撮り続けるためには、住む場所なんてこだわらない」と言っているようにも聞こえ、妙に納得させられもしたのです。

 

 

ガス・ヴァン・サント監督の最新作『ドント・ウォーリー』は、1970年代に活躍したポートランドの風刺漫画家、ジョン・キャラハンの物語。アルコールに溺れ、事故をきっかけに車いす生活を余儀なくされながらも、真っ赤な髪の毛をなびかせて、猛スピードで車いすを走らせていたキャラハンは「地元ポートランドでは有名人」だったそう。その後は断酒をしながら大学に通い、趣味で描いていた漫画が全米の新聞に掲載されたのをきっかけに、一躍アメリカ中で有名になったのだといいます。

 

「ジョン・キャラハンの漫画は面白いんだけど、自分の障害をネタにしたりして毒のあるものだったから、苦情の手紙も沢山届いていた。でも彼はそれすら喜んだ」と監督が語るように、映画の中のキャラハンからも、風変わりな人物であることが伝わってきます。

 

 

監督曰く、もともとキャラハンのファンだったというロビン・ウィリアムズが、(キャラハンの)自伝の映画化権を買い取って話を持ち掛けてきたのが、本作誕生のきっかけだったそう。監督は「ロビンが演じるならうまくいくのでは?」と思い、2本の脚本を書いたものの、なかなか映画化までたどり着けず「この映画ができる頃には、俺たち死んじまうよ」と、キャラハン本人からもけしかけられていたそうなんです。「そしたら本当にその後ジョンとロビンが相次いで亡くなってしまった。まったく彼の言うとおりだった」と、監督は振り返ります。

 

ちなみに、ティーチインの翌日に行われた記者会見で「ロビンがジョンを演じたがったのは、親友だった俳優のクリストファー・リーヴのためでもある」と明かした監督。というのも「ロビンとクリストファーはジュリアード音楽院時代の同級生。クリストファーは乗馬中の事故が原因で、ジョンと同じく車いす生活を余儀なくされていた。クリストファーに対する想いを、どこかジョンと重ねていた部分があったのではないか」と分析。意外なエピソードを伺って、思わず胸が熱くなりました。

 

 

映画化にあたり、断酒会にまつわるエピソードに一番興味を持ったという監督は、その部分を膨らませてドラフトを作り、キャラハン役を務めたホアキン・フェニックスさんへ話を持っていったのだそう。監督自身も、過去に断酒会に参加した経験があると言い「グループセラピーは結構エキサイティングだった」と告白。その理由について「8人が円になってお互いに話していくんだけど、全員が嘘をつき合っている。だからこそ、これを映画にしたら面白いんじゃないかと思ったんだ」と教えてくれました。

 

 

一方記者会見では、本作の主演を務めたホアキンさんと、彼の実の兄でわずか23歳にして夭逝したリヴァー・フェニックスとの共通点についても言及していた監督。

 

「2人は4歳違いの兄弟なんだけど、とてもよく似ているところがあると感じていた。僕が初めて兄のリヴァーと出会ったのは、彼が二十歳のときのこと。フェニックス一家が当時住んでいたフロリダの自宅で、彼と一緒にスケートボートのジャンプ台を眺めながら話したことを覚えている。彼は弟のホアキンのことを『クレイジー』だと言っていたんだ(笑)。2人とも予測不能な性格の持ち主であるところは共通しているが、人間的にはまったく異なるタイプであるとも言える。とはいえ、アメリカ中を放浪しながら暮らしていたユニークな家族の一員として、共通の資質を受け継いでいることは間違いないよ」

 

 

ガス・ヴァン・サント監督から、かつて自らの映画に主演した、いまは亡き才能あふれる俳優たちについての話が語られるたび、その切なさに胸が締め付けられます。ですが、それと同時に映画の中ではいつだって蘇ることができる彼らに、きっとこれからも何度も励まされたり感動させられたりするのだろう、と思ったりもするのです。

 

今回、ガス・ヴァン・サント監督が10年ぶりに来日してティーチインや記者会見でお話ししてくださったおかげで、最新作の『ドント・ウォーリー』と過去作とのつながりを改めて感じることができました。実生活では何かと便利なロサンゼルスに拠点を移しても、「ポートランド魂」は映画の中に生き続けているのです。

 

(取材・文:渡邊玲子、写真:加藤真大)

『ドント・ウォーリー』概要

 

『ドント・ウォーリー』
5月3日(金・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町・ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国順次公開

監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック
音楽:ダニー・エルフマン 原作:ジョン・キャラハン
原題:Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot
2018年/アメリカ/英語/115分/カラー/PG12
配給:東京テアトル 提供:東宝東和、東京テアトル

 

公式サイト:www.dontworry-movie.com

 

 

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